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____あいにくの雨模様。
この前開花したばかりの桜の花が、雨に濡れて道端に散る。
東京都中心部にある、高層ビル。
星空遥は、そこで静かに書類のチェックをしていた。
「失礼します」
ノックの音がしたと思うと、一人の男性社員が入ってきた。
横井慎吾だ。
「なーに、今忙しいのっ」
そう言いながらも、遥はぐでーっと机につっぷつした。
「昨日からその書類チェックしてばっかりじゃないですか。進んでないでしょ」
「ぬ…」
言葉に詰まる。
「あのねえ、横井くん。これでもあたし、一応社長なんですけど?」
「それならもっと社長らしくしてくださいよ」
「なぁにをーーーーっっ」
お互いじっと睨み合う。
険悪な雰囲気が続くと、お互いぷっと吹き出した。
「なにこれ、あたし達らしくないねっ」
「普段は社員みんな仲良いですからね。…ところで、社長」
横井は、先程とは打って変わって真剣な表情で遥を見つめた。
「例のプロジェクト、進んでますか?」
遥はうっ、と言葉を詰まらせる。
「も、もちろん進んでるよ〜。もうすぐ終わるところで〜」
「嘘ばっかり」
__ここは芸能事務所・星空プロダクション。
他と比べたら歴史の浅い会社だが、現在日本トップの人気と知名度を誇る。
その社長が、星空遥24歳なのだ。
「数ヶ月前、突然『アイドルプロジェクトをやるー』って叫んだ時は何事かと思いましたが…本当にその言葉しか頭にないんですか?」
横井が呆れた表情を見せる。
「いくらなんでもその時よりは話進んでるわよっ。スクールの方も協力してくれるんだからっ」
「スクール…って…隣の?」
「もちろん」
遥はニヤニヤしながら横井の顔を覗き込む。
「楽しみにしててよねー、よ・こ・い・くんっ」
遥は整理していた書類の束を抱え、軽やかな足取りで部屋を出て行った。
「…まだ何もできてないのに?」
横井は苦笑いで呟いた。
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